なるべく自然なものがいいの? 渕上桂樹 の『渕上ラジオ』(第8回)

パーソナリティ:渕上桂樹 農業コミュニケーター
どうも皆さんこんにちは。農業コミュニケーターの渕上桂樹です。今日も渕上ラジオでは皆さんからの質問にお答えしたいと思います。
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今日の質問はこちらです。品種改良されて農産物の味は良くなったけど
質問:なるべく人間が手を加えていない、自然な農産物の方がいいの?
という質問です。ありがとうございます。まあこれ結構言われるんですけどね。人間が手を加えていると自然じゃないよね、という。まあ、そういう捉え方はあると思います。確かに、自然に勝手に生えているものと違って、品種改良というのは人間が代々手を加えてきているものです。いろんな技術を使って品種改良されたものがスーパーに並んでいて、それらのほとんどは元のものよりもすごく美味しくなっています。
ご質問なんですけど、なるべく手を加えていないものがいいの?ということですが、この理由としてよく言われるのが、「品種改良されて味が良くなったけど、栄養がなくなったのでは?」というものです。実際にそういう系のニュース記事を読んだことがあります。
栄養は減ったのか?それとも増えたのか?
結論から言うとね、なんとも言えないんです。なんとも言えないというのは、品種改良されたものというのも品目もすごく多いですし、栄養の項目もすごく多いし、昔の農産物というのも測定の基準とかも全然違うので、比べること自体がそもそもできないんですよ。昔の方が栄養がある、今の方がないとか、その逆もなかなか言えない。なんとも言えないです。
ただね、品種改良によって基本的に食べやすくなったということは事実なので、美味しくなったんですよね。美味しくなって、そしていろんな季節によっていろんな品目が食べられるようになったので、美味しくてたくさん食べられる。たくさんの品目を食べられるということになったので、これは栄養的に言ったら、むしろ品種改良されている今の農産物の方が昔よりは全然いいかなと思います。
毒素の少ない農産物へ
それだけじゃなくて、品種改良によって栄養はなんとも言えないというふうに言いましたけど、毒素が少なくなっているというのは、全体的に事実なんですよ。野生の植物の毒素をあまりないようにして、どんどん品種改良して、そしてもう食べやすくしているんですけど、これも結構代表的なのがトマトなんですね。
トマトの原種ってあるんですけど、これ、品種改良の現場とかであったりするんですけど、それはトマトの原種で、美味しくない、本当に美味しくないだけじゃなくて、トマチンという毒素が本当にたくさん含まれていて、むしろ原種のトマトの方が健康に悪いんですよ。今はもうそのトマチンがどんどんないようにして、品種改良されているので、全然大丈夫なんです。
実際は少しあるんですよ。品種改良されている今のトマトも、ほんの微量なトマチンという毒素が含まれてはいるんですけど、普通の量を食べる分には大丈夫です。普通の量というのは、トマトが大好きでたくさん食べますよという人でも普通の量なので、そのくらいの分には大丈夫です。
このあたりは残留農薬の考え方と一緒ですね。残留農薬もゼロではないですけど、普通に食べて摂取する分には大丈夫ですよ、というものです。今、トマトを例に出しましたけど、野生の植物というのは、実はかなりの割合で何かしらの毒を持っているんですよね。山などで見かける植物も、結構そうです。
自然は必ずしも人に優しいとは限らない
なので、「なるべく自然のものがいいの?」とか「自然は優しい」というイメージがあるかもしれませんが、実際の野生の植物、自然の植物は、人間には全然優しくないんですよね。ただ、人間というのは、他の哺乳類に比べてたまたま毒素に強い性質を持っている生き物なので、実感しにくいのかなとは思います。
人間は毒素に強いの?と聞かれることがありますが、犬を飼っている人は分かると思います。犬って、食べさせてはいけないものが結構いろいろありますよね。カカオ豆、チョコレート、ブドウの種など、ほんの少しなら大丈夫かもしれませんが、犬にとってはあまり良くないものがあります。これは実感できると思います。人間は、たまたま結構毒素に強い生き物なんですよね。なので、自然のものがいいという感じには、あまり思わないです。
品種改良は古代からの営み
自然は良いものですけど、だからといってそっちの方が健康に良いというわけではないと思います。そもそも、品種改良というのは最近になって始まったわけではなく、農業が始まった太古の昔から、一番最初からやっていることなんですよ。
初めての農産物として、歴史の時間に「チグリス・ユーフラテス川のあたりで麦の栽培が始まりました」と教わったことがあると思います。それ以外にもいろいろあるのですが、例えば、麦を栽培し始めたとき、その麦はもともと野生の麦で、実が成熟するとポトポトと地面に落ちて、それで発芽するという性質を持っていました。植物は大体そういうものなんですけど、たまたま成熟しても穂から実が落ちない麦を発見して、メソポタミア人がそれを栽培し始めたのが農業の始まりなんです。
ですから、品種改良は最近になって始まったことではありません。人間の文明というのは、厳しい自然を克服するところから始まったものだと思います。品種改良もその一つだと思います。
今ではいろいろな技術を使って品種改良がされていますが、それは美味しいというだけでなく、私たちの健康や暮らしや命も守っているものなんじゃないかなと思います。
ということで、質問の答えはこれでよろしいでしょうか。ありがとうございます。渕上ラジオでは皆様からの質問にお答えしています。私のSNS『X』に質問していただいてもいいですし、匿名質問サービス「mond」の方に渕上桂樹宛てに送っていただければと思います。それではまた別の機会にお会いしましょう。バイバーイ!
イラストレーション:竹村おひたし